オスの三毛猫だけじゃない、確率の低い猫の毛色

オスの三毛猫だけじゃない、確率の低い猫の毛色

オスの三毛猫がすごく珍しいのは有名な話です。 そのため縁起がいいとされ航海のお供になった三毛猫タケシの話も このブログで紹介しました。 今回はなぜ三毛猫にメスが多いのか、 三毛猫以外でも性別によって生まれてくる確率が違う 猫の毛色について紹介します。 オスの三毛猫が珍しい理由 ①人間と同様、猫の性別は性染色体の組み合わせによって決まります。  性染色体にはX染色体とY染色体があり、それぞれ父猫、母猫から1つずつもらいます。  その組み合わせで「XX」だとメス猫、「XY」だとオス猫になります。

②その時に父猫、母猫からそれぞれのカラー遺伝子も1つずつもらっています。  その組み合わせによって毛色が決定します。カラー遺伝子は9種類あります。

③三毛猫の猫が必要な色は3色、「黒」「白」「茶」です。  その中の茶色の発現に関わるO遺伝子(OはオレンジorangeのO)はX染色体にしかありません。  今回の話はO遺伝子が主役になります。 ④O遺伝子にも種類があります。O(ラージオー)、o(スモールオー)の二種類です。  O(ラージオー)遺伝子は黒い毛を茶色の毛に変えるよう命令し、反対にo(スモールオー)遺伝子は黒いままにするよう命令します。 メス猫はX染色体を2つもっているので O遺伝子の組み合わせは「OO」、「Oo」、「oo」の三種類。 しかし、オス猫はX染色体が1つしかないので「O」か「o」のどちらか。 この組み合わせで黒と茶色のバランスがきまります。 「OO」と「O」の場合は茶色、「oo」「o」の場合は黒色、 そしてO遺伝子が「Oo」の組み合わせのときだけ、 黒と茶色両方の色をもつ猫が誕生します。 例えば茶トラのオスと、三毛猫のメスで仔猫を産むと、こうなります。

O:ラージオー遺伝子 o:スモールオー遺伝子 YはO遺伝子を持っていません ※この表は分かりやすくするため、O遺伝子に限定しています。 実際には9種類のカラー遺伝子が組み合わさって色を決定しています。 例えばW(ホワイト)遺伝子は最も優先される遺伝子で、 W遺伝子を持っていると、「OO」や「Oo」だろうが 他のカラー遺伝子に関係なく全て全身白猫になります。 この中で三毛猫になる可能性があるのは表の右上の「XX(Oo)」だけです。 オスの三毛猫が珍しいのはO遺伝子があるX染色体が1個しかなく、 「Oo」を作れないからです。 オスの三毛猫はどうやって「Oo」の組み合わせになったのか?? 上記の説明だとオス猫はX染色体が1つしかないので 「Oo」は絶対作れないことになります。 しかし、正常のオスは「XY」ですがX染色体が1つ増えて 「XXY」になっていることがあります。 このように「X」の数が多いオスをクラインフェルター症候群といいます。 こういった染色体異常があると オスでも「Oo」の組み合わせになる可能性があるので、 オスの三毛猫が実在しています。 他にも性染色体が2つある「XX/XY」という染色体異常もあり、 それでもオスの三毛猫が生まれる可能性があります。 実際に動物の染色体を研究している機関に問い合わせた所、 日本のオスの三毛猫の染色体は殆ど「XX」でした。 これはY染色体の性決定因子がどこかに「転座」しているのではないかと推測されます。 転座:染色体の一部が切断され、他に付着するなどのして位置を変えたもの。 突然変異の1つ。 三毛猫以外の毛色で性差があるものは? オスの三毛猫が珍しいのは 「黒」と「オレンジ」の両方の色を持つことができないことが理由でした。 他に「黒」と「オレンジ」が同時に出ている毛色はなんでしょう? 答えはトーティです。 トーティ(あるいはサビ柄、べっこう柄)も三毛猫と同じ理由で圧倒的にメスが多いです。 つまり「黒」「白」「オレンジ」を併せ持つオスの三毛猫が珍しいのではなく 「黒」「オレンジ」の2色を持つオス猫が珍しいのです。 つまりオスの三毛猫だけでなく、オスのトーティも同じぐらい珍しいのです。

実家のサビ猫。やはり♀ メスの方が珍しい猫の柄はいないの? 反対にメスが珍しい柄は茶トラ、茶シロです。 茶トラ、茶シロはオスとメスの比率は経験的にオス:メス=8:2ぐらいです。 メスの茶トラはオスの三毛猫やトーティに比べるとそんなに珍しくないです。 オスの茶トラ、茶シロが多いのはやはりO遺伝子が関係しています。 オスの三毛猫の確率は? 1/1000、1/30000、1/100000、色々な数字が出回っています。 ネット上では1/30000が多いです。 獣医学書では三毛猫3000匹に対して1匹ぐらいではないかと推定されています。 猫の毛色の割合は地域によって異なるので、 仮に全体の10%が三毛猫の地域であれば、猫全体に対して1/30000になります。 またトーティの話になりますがイギリスの研究ではオス猫4598匹中、 トーティのオス猫は20匹いたと報告されています。これはすごく高い割合ですね。 私は数千匹のオス猫と会っていますが0ですので、調査を行った地域に何かしらの理由がありそうです。 逸話的には先輩の獣医のからは 「オスの三毛猫は動物病院で40年働いて一匹会うかどうか」ともいわれます。 最後に 私は物理を選択で大学受験勉強をしたので大学時代は遺伝学のテストが大変でした。 そのことを思い出しながらできるだけ分かりやすく、簡潔に書きました。 そのため遺伝学の初歩をだいぶ省く、また用語も学術的に 正確なものより分かりやすいものを選んでいます。 もっと詳しく知りたい方は猫の毛色と遺伝について解説してある書籍を手に取ってみて下さい。 三毛猫と遺伝子の話しはそれだけで本が1冊できてしまうほど奥が深いです。 参考 ・Canine and feline theriogenology ・Male tortoiseshell cats in the United Kingdom 1999



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