ネコにアロマは危険!?
アロマテラピーは花や植物に由来する芳香成分を用いて、心身の健康や美容を増進する効果があります。 アニマルアロマテラピーといった、動物向けアロマもあります。 しかし猫に関しては少し注意が必要なことは今だに知られていません。 猫がいる家でアロマを焚いてはいけないって本当? 結論を先に言ってしまうと、猫がいる部屋ではアロマを炊かない方が安全です。 それはアロマオイルがどのように猫に毒性があるのか分かっていないからです。 獣医師として毒性がわかってない以上、炊いても大丈夫とは言えません。 精油を舐めた、または皮膚に滴下した猫が死亡した例や、毎日アロマを炊いた部屋で一緒に住んでいた猫が血液検査で肝臓の値が高かった例が記録されています。 それではなぜアロマテラピーが猫の体に合わないのか、なぜ炊かない方が安全なのか、順を追って説明していきましょう。
アロマテラピーに使われる精油とは アロマテラピーに使用される精油(エッセンシャルオイル)は特定の植物から抽出して製造されます。 植物から抽出された純度100%のもののみを精油と呼び、アルコール等の不純物が混ざっていていてはいけません。 1mlの精油を製造するのにその100から1,000倍の質量の植物が必要なため、種類によっては大変貴重で高価になります。 100%天然植物由来の精油ですが、特殊な製造行程により極度に濃縮されているため人間でも過剰な使用は危険です。 なぜ猫には精油が危険なのか 猫の肝臓の代謝機能が犬や人間と少し異なります。肝臓の重要な働きのひとつに解毒があり、体にとって有害な物質を無害に変化させています。 猫の肝臓には、重要な解毒機構のひとつであるグルクロン酸抱合がないことがわかっています。 そのため精油や植物毒性に限らずグルクロン酸抱合で分解される薬(アスピリンなど)は少量でも中毒に陥りやすいです。 同様にグルクロン酸抱合の能力が弱いフェレットでも、精油の毒性がでやすいことが分かっています。 なぜ猫はグルクロン酸抱合が無いのか 猫は人間や犬と食性が異なり、完全肉食動物だということです。 完全肉食動物とは「生きていくのに必ず肉(動物性タンパク質)が必要」という意味です。 つまり人間のベジタリアンの方のように野菜と穀物だけでは生きていけないのです。 犬も肉を好みますが肉を摂食しなくても生きていけるため人間と同様に雑食動物に分類されます。 進化の過程で完全肉食動物は肉食に合った肝機能が残り、不必要なグルクロン酸抱合は退化したのだと考えられます。 ちなみにフェレットも完全肉食動物です。 精油には植物の有機化合物が何倍にも濃縮されている ユリ科植物が猫にとって危険であることは有名ですが、他にもサトイモ科、ナス科など数多くの植物が猫に対して毒性があります。 全ての植物が猫にとって危険というわけではありませんが、私たち人間や犬が食べても問題ない植物でも危険なことがあると覚えておいて下さい。 (特に危険な植物はこちら) 猫ちゃんによっては猫草、キャベツやレタスが好きな変わった好みの猫もいますし、安全な植物であれば食べても問題ありません。 しかし精油には植物の有機化合物が何倍にも濃縮されているため、少量でも中毒を起こしやすいです。 そして精油の毒性の怖い所はある種の精油には蓄積性がある点です。 猫の1日の代謝能力を超えた精油を摂取し続けると体に溜まり、ある日突然症状が出ることもあります。 特に猫に危険なアロマの種類 フェノール類、ケトン類、そしてモノテルピン炭化水素類(特にリモネン、ピネン)を多く含む物が猫に毒性が出やすいとされています。 アロマに使われる代表的な精油の種類です。
モノテルピン炭化水素類を多く含む代表的な精油 :Holistic Aromatherapy for animals
フェノール類を多く含む代表的な精油 :Holistic Aromatherapy for animals ※精油はたくさんの種類があり、ここに挙がっているもの以外にも猫に危険な成分を多く含む精油はあります。 ※精油の名前は地域によって、呼び方が異なることがあります。 必ず学名(植物の科学的な分類による名前)を確認して下さい。 その他に実例が記録されているもの:ペッパーミント(Menthe piperita)、シトロネラ(Cympogon, nardus)、ティーツリー(Melaleuca alternifolia) 猫に安全なアロマはないのか? 精油を長期的に猫に使用した研究やデータがなく、理論的に問題が無いと言われている精油でも今後猫に対する毒性が出てくる可能性があります。 まだまだ猫と植物毒性に関して科学的に解明されていないことが多いです。 例えば、ユリ科植物が猫にだけ致死的な腎不全を起こす原因は未だに不明です。 よって現段階では猫がいる環境でアロマを炊くことは避けたほうが良いと言うことになります。 既にアロマテラピーが生活の一部になっている方はどうしたらよいのでしょうか。 どうしてもアロマが欠かせない場合は、猫がアロマを誤って触れないに厳重に管理する、アロマの頻度を減らす、猫がいる部屋では炊かない、よく換気をするなど、精油が猫に触れる機会を減らしてください。 猫はお風呂に溜まった水を舐めたりするのでアロマバスなどをしている場合は浴槽に猫が入らないよう注意しましょう。 精油の中にも特に毒性が強いもの(上記リスト)があります。 これらの種類の精油の使用は避けましょう。また定期的に健康診断を受け、その際には家でアロマを炊くことがあることを相談し、肝臓に負担がかかっていないかチェックするとより安心です。 専門家ではない方が猫のアロマテラピーを実践するのは危険 アニマルアロマテラピーに関心がある飼い主さんから、愛猫のストレス軽減や、皮膚病に対してアロマテラピーを試してみたいと相談されることがあります。 アロマテラピーでご自身の症状が改善した経験がある飼い主さんが、「アロマの効能を私の猫ちゃんにも」と思う気持ちは良くわかります。 しかし上記の理由から、専門家ではない方が独学で猫のアロマテラピーを実践するのはリスクが高いです。 もし興味があるというのであれば、まずアニマルアロマテラピーに精通した獣医師に相談して下さい。 猫のアロマテラピーのメリットそして起こりうる副作用について正しく認識することが大事です。 まとめ アロマに限らず、人間の薬やサプリメントでも猫にとっては危険なものが多いです。 若くて健康だった猫が突然のぐったりしてしまった、検査をしても原因不明の昏睡になってしまった猫の中にはこうした中毒が原因のであった可能性も考えられます。 人間や犬とは肝臓の解毒機能が違うということをしっかり念頭に置いておく必要があります。 愛猫のためにと思ってやったことが、皮肉にも猫の健康を害してしまうような悲しいことにならないように、何か猫に与える時は飼い主さんだけで判断せず必ず獣医師に相談しましょう。 おまけ 猫はアロマの匂いをどう思っている? 猫はアロマについてどう思っているでしょう。 猫は基本的に強い香りを好まず、特に柑橘系の香りを嫌います。 試しにミカンの皮を猫に近づけてみるとほとんど猫は逃げるでしょう。 ラベンダー、シナモン、ローズマリー、タンジェリンなどが庭に撒く用の伝統的な「猫除けスプレー」のレシピに含まれています。 賢い猫はアロマを炊くと静かに部屋から出て行くこともあります。 これは本能的に自分に毒性があることを知っているのでしょう。 洗剤についても猫の食器やトイレまたフローリングに使う洗剤は、柑橘系の匂いがするものは避けてあげると良いでしょう。 参考:Holistic Aromatherapy for Animals. Kristen Leigh Bell